Tグループとナラティヴ・アプローチ No.002:ナラティヴ・セラピーの魅力の1つ

 Kouさんに会う前に、大学の同僚のYAYOIさんからナラティヴ・セラピーの学びのお裾分けを頂きました。その中で、クライエントが相談に来られた時に、セラピストやカウンセラーが「何があなたをここに来させましたか?」といった質問をするとのこと。その質問を初めて聞いた私にはなぜそのような奇妙な問いかけをするのだろうと不思議に思ったものです。その質問を外在化の質問と呼ぶことは後で少しずつわかってきていました。

 ただ、その時の話で私に興味深かったのは、「何を相談しに来られましたか?」「お困りごとは何ですか?」ではない問いかけをすることでした。その問いかけの中には、来られた方が相談者で、その相談を受ける人がセラピスト、カウンセラーであるといった、被治療者ー治療者という関係がそこでできてしまうということを避けたいということが1つの理由であるとのことでした。会話を通してこうした関係が生まれることを社会構成主義というらしいです。

 ナラティヴ・セラピーでは、一人ひとりとの関係を対等な関わりとして実現したいという思いがあるということです。このことは、ラボラトリー体験学習、とりわけTグループに関わる一人として、「グループの中で一人ひとりが対等な関係であり、民主的な風土をいかに創り出せるかを体験を通して学ぶ場」を創ろうとしているトレーナー、ファシリテーターである身としてはとても大切な考え方だと考えているからです。

 Tグループの中で、一人ひとりが取り組みたい課題があったり、自分の中に秘めたニーズがあったりすることをいかに大切にしながら関わりを紡ぎ出し、グループ、チーム、組織として機能することを学ぶかが1つの中心的なテーマだからです。関わりを紡ぎ出す力は、参加者の中にあるのであって、トレーナーやファシリテーターが紡ぎ出すのではないのです。トレーナーやファシリテーターという役割を担いながらも、いかに一人のメンバーとしてグループの参加者メンバーと関わりながら、気づきや学びを発見し考察を深めていくことを支援することが大切であると考えています。

 ナラティヴ・セラピーにおいても、すでに一人ひとりがもっている生きる力を本人が見つけ出し自分のアイデンティティを確かなものにすることを支援することと理解しています。自分が自分の人生の専門家であるという認識をもって、セラピストやカウンセラーは関わるということです。

 この姿勢は、グループに関わる身としては、とても大切な視点だと考えています。このことを忘れてしまうと、人を、グループを操作したくなります。ともすれば、トレーナーやファシリテーターが、自分が専門家であると妄想してしまうと、指示をしたり、説明したり、行動変容を求めることをしてしまう可能性があります。

 あくまで「人生の専門家はその人である」という認識はもって、個人やグループに関わっていきたいものです。

 ※ナラティヴ・セラピーについて語るほど十分な理解をしていませんので、できれば国重浩一(Kou)さんの書籍「ナラティヴ・セラピーの会話術(金子書房)」を何回かに分けながら紹介させて頂ければと考えています。(つづく)