Tグループとは No.049 グループは変化する:Rogers(1961,1968)の個人やグループの変化

 カウンセリングにおけるクライエント中心療法を提唱したRogers(1961,1968)によって示された個人やグループの変化モデルは、人間関係トレーニングにおける個人やグループの成長を考える際に有用だと考えています。

 このモデルは、心理療法におけるクライエントの変化を理解するために考えられたものです。彼は、人間が成長するということは、ある固定化した状態あるいはホメオスタシス(homeostasis)から、変化によって別の新しい固定化した状態に移動することではないと言っています。彼は、変化のプロセスとして固定性(fixty)から可変性(changingness)へ、固定的な構造から流動性へ、停滞から過程へといった連続性(continuum)を仮定しています。

 彼のモデルの変化は、自分の感情を認められなかったり、受け容れられなかったり、所有感がなかったりする状態から“今ここ”での感情に気づくようになること、そして過去の出来事よりも今の出来事の中で自分自身が経験していることを解釈できるようになることを意味しています。“新しい感情経験”に学習者がひらかれていくことは、Rogersの非指示療法のスタイルと密接に結びついており、その変容モデルでは次の7つのステージを仮定して います。

【第1段階】 感情や個人的意味づけに自分で気づいていなくて、それらが自分のものになっていない状態です。
 ケリー(Kelly,1955)が提唱する個人的構成概念(personal constructs)が極端に固い状態です。自分自身の中にある問題に気づいていなくて、自らが変わろうとする願望をもっていない状態です。

【第2段階】 自分が十分に受け容れられていると感じられるようになると、象徴的な表出(symbolic expression)がわずかに解放され流動してくるようになります。感情が表出されるかもしれないが、それを自分の感情として認めない状態にいます。また、矛盾を表出することがありますが、それをほとんと矛盾と感じないでいます。

【第3段階】 第2段階で少しの解放と流動が妨げられないで受容されたと感じると、さらに象徴的な表出が解放され流動します。客体としての自己についての表現がより自由に流動するようになります。感情の受容(acceptance of feelings)は極めてわずかで、過去の経験として語られます。経験の中に矛盾を認めることができるようになります。

【第4段階】 個人がより理解され、受け容れられていると思うと、構成概念の漸進的な解放と感情のより自由な流動が起こります。“非現在的な”(not-now-present)強い感情を述べ、時には感情が現在のものとして語られることもあります。問題についての自分の責任の気持ちが起こり、動揺します。感情のレベルでわずかながらでも人との関係をもとうとして、自らの危険を冒してみようとすることがあります。

【第5段階】 感情は“今ここ”でのものとして自由に表出され、生まれ出る感情に対して驚きと恐れが起こります。自己の感情が自分のものだという気持ちをもち、“本当の自分”(real me)でいたいという願望が増加します。個人的構成概念の再吟味がなされ、自分の中で自由な対話が起こり、内的コミュニケーション(internal communication)が改善されます。

【第6段階】 固着化して、押しとどめていた感情が“今ここ”で体験されます。その感情は十分結末まで流れ出し、その感情があるがまま受容されるようになります。そして、客体としての自己が消失する傾向にあり、まさに“今ここ”での関係の中でいきいきと生きることができるようになります。

【第7段階】 治療的な状況だけでなく、それ以外の場面においても、新しい感情が瞬時性と豊かさをもって体験されます。変化する感情を自分のものとして実感して受け容れることができ、自分の中で起こることに対して基本的な信頼をもつことができます。個人的構成概念は暫定的に再形成されますが、それは固執したものではないのです。そして、新しい自分のあり方を効果的に選択するという体験が起こります。変化するプロセスの中で十分に生きている実感をもつことができます。

 以上のRogersの個人の変容過程は、客体として固着化した自己の状態からはじまり、連続線上の最終目標は、人々が自由にいられることと、自分自身をあるがままに感じられるようになることであるといえます。

 グループの変化成長の視点から見るならば、成長したグループでは、目の前にいる個人(自分自身も含めて)を受容したり、理解したり、認めたりする自由なコミュニケーションが行われる風土が生まれていると考えられます。Rogersによれば、基本的には人々は成長への欲求をもっているので、グループの中に適切な心理的安心安全な風土が生まれると、個人の変化成長は容易に起こりうると考えられています。彼は、それが自然(natural)であると述べています(Rogers,1970)。(つづく)