Tグループとは No.048 グループは変化する:Lacoursiere(1980) によるグループ発達のメタ研究

 Lacoursiere (1980)は、さまざまな分野での200にのぼる集団発達研究をレビューして集団の発達モデルを提唱しています。

 彼は、集団の発達過程を社会的情動的(social-emotional)もしくは課題関連的(task-related)行動に従い、5つの段階に分けて説明しています(図)。それぞれの段階を「導入(orientation)」-「不満足(dissatisfaction)」-「解決(resolutiOn)」-「生産(production)」-「終結(termination)」の段階として命名しています。

 1.「導入(orientation)」の段階:グループメンバーは何らかの期待のもとで集まって来ます。一方で、他のメンバーがどんな目的で来ているのか、ここで何が得られるのか、ファシリテーターは私たちのために何をしてくれるのか、などかなり不安や懸念を抱えている初期のグループ段階からスタートします。
 この段階では、メンバーは状況と権威者に対して関心があり依存的です。はっきりした課題をもつ問題解決集団では、これらの不安や懸念を解消するためのこの初期の段階は比較的短かく過ぎていきすが、Tグループやセラピーグループでは比較的長い時間を要することになります。

 2.「不満足(dissatisfaction)」の段階:参加者が期待していたことと現実が一致していることは稀なことであり、課題に対して、またリーダーなどの権威者に対して不満足感を感じるようになります。
 特にグループの課題が、対人関係の事柄を扱うTグループなどでは、ネガティヴな反応が顕著にあらわれやすくなります。メンバーは無力感を感じ、失望感を経験し、そのネガティヴな感情は最初の段階の期待にも増して強くなります。この「不満足」の段階は葛藤と怒りなどの感情を、いかに解決できるかといった次の段階の課題と関連しています。

 3.「解決(resolution)」の段階:「不満足(dissatisfaction)」の段階から第4の「生産(production)」の段階への移行がかなり難しいときに、この「解決(resolution)」の段階が生起することになります。スムーズに「生産(production)」の段階へ移行するときには,第4段階の「生産 (production)」の段階のはじまりの一部とみなすことができます。
 この段階は、初期の期待と現実とのズレを修復する時期といえます。すなわち、この時期は自尊感情を高めたり、課題を遂行するためのスキル向上が見え始めたりする時期でもあります。この「解決(resolution)」の段階での重要な対人的課題は、メンバー間の、またメンバーとリーダー間の激しい敵意感情を減少させることです。

 4.「生産(production)」の段階:初期の「不満足(dissatisfaction)」の段階のネガティヴな感情と対照的に、経験していることへのポジティヴな感情に特徴づけられます。
 グループに課題遂行志向の活動があるならば、メンバーは満足して協同して働き、グループはリーダーとか状況に対して依存的であったのが自立的になります。課題遂行へのスキル向上にともない、成功経験がさらにポジティヴな感情を促進し、循環的に経験が働くようになります。この時期は最後の段階の「終結」がおとずれるまで続きますが、その長さは課題の種類、困難や期待と現実とのズレの大きさなどにより異なります。
 Tグループやセラピーグループのように、課題が明確でなくスキルの獲得も難しいグループでは、グループライフの中でのこの時期は比較的短くなります。Tグループの場合、グループメンバーは導入(orientation)と不満足(dissatisfaction)の段階で長く過ごし、この生産(production)の段階が短くとも、グループのプロセスを通して学習をしている段階であり、いわば全段階の中で課題に取り組んでいるといえます。

 5.「終結(termination)」の段階:参加者は自分たちがグループメンバーとともに成し得たことと、グループの差し迫った解散に関心が向けるようになります。
 あるグループではメンバーは別れることの寂しさや悲しさを感じ、それを否定しようとします。また、課題の達成感の強いグループでは、そうしたナガティヴな感情よりも、ポジティヴな感情がまさることもあります。「終結」の段階では、一般に仕事量は減少しますが、寂しさや悲しさの感情を隠すために、また時間に間に合わせて課題を完成させるために仕事量が増すこともあります。

 Tグループなどでは、この「終結 (termination)」の段階を経験することも課題の1つであり、グループメンバーによって自分たちの感情を確認し合うようなことも起こります。「生産」の段階で満足した経験をしているかどうかが「終結(termination)」の段階においてグループが一体感をもって終われるかどうかにかかわってくると考えられています。(つづく)