Tグループとは No.032 関わりが私を創るというCPSIモデル

 リビット (Lippit, 1982)は、集団の中でメンバーがしばらく過ごしていると, メンバー特有の行動傾向が生まれることを見出しています。 彼は、私がいなくてはこのグループは活動が進まないだろう」と考えている人は、集団の中でだんだん「はなのたかお (鼻が高く)」君になり、「私はこのグループでは、あまり役に立たない」と考えている人は、しだいに「きのよわし (気が弱く)」君になっていくというメカニズムを提唱しています。このメカニズムは「社会的相互作用の循環過程(Circular Process of Social Interaction:CPSIと略)」とよばれます。この循環過程のステップを示したものが図に示されています。

 人々は集団の中で自分自身について何らかの考えや感情【自己概念】をもっています。その自己概念のもとで、他者に対する行為の【意図】が生まれ、その意図で他者に対して【行 動】を示します。それが他者への【行動のアウトプット】となります。

 はなのたかお君は、「僕はこのグループのなくてはならない存在だ【自己概念】と考え、少し沈黙があると、私が何か提案しないと動き出さないから私が言わなければという【意図】で、「私にはいいアイディアがあります」と言って、働きかけ【行動のアウトプット】 を行います。

 その行動を他者の内的な過程として、他者の中にある相手に対する期待や思いなどのスク リーンを通して,認知することになります。認知した結果、メンバーへの反応への意図が生まれ、はなのたかお君に反応することになります。はなのたかお君を他のメンバーは、「やっぱり彼は意欲的で彼に従っていれば事は進むなあ」【彼に対する態度】と考え、「彼にこ こは任せておこう」という 【意図】でもって、「それはいいですね」とか「あなたの考えで進めていってください」と【反応】することになります。はなのたかお君の知覚のスクリーンを通して、自己概念を高めていくことになります。

 その結果、はなのたかお君は、「やはり私のアイディアが認められた」【知覚のスクリーン】と考え、「やっぱり私はここでは必要とされている人間だ」と自己概念を確かなものにしていくメカニスムがCPSIなのです。

 きのよわし君の場合も、負のスパイラルのメカニズムで、どんどん、きのよわし君になっていくと考えられます。

 このパターン化したメカニズムから抜け出すためには,いくつかの方法が考えられます(図)。 1つは、自己概念を捉え直してみることです。きのよわし君の場合、「私は、グループのメンバーと同じだけ値打ちのある意見やアイディアをもっている」という自分に対する考えを書き換えることです。2つ目は、その新しい自己概念に従い、そうした私なら何ができるかを考え、意図と行動を変化させることです。「私のアイディアはこのグループに必要だ」【意図】とで、「私には、こんなアイディアがあります」と【行動】を起こすことです。

 ただ、上記の2つだけでは、この循環過程のメカニズムは断ち切れません。そのような意識的な変革をめざした行動を相手のメンバーがどのようにキャッチし、応答することがないと実現しないのです。

 「今日の彼はいつもと違って、はっきり発言しているなあ」というように他のメンバーが意識的な行動を認知する (気づく) ことが大切になります。さらには、その気づきをもとに新しい行動を試みた相手に「そのアイデアをもう少し詳しく聴いてみたいので、あなたの意見を話してください」といつもと異なる【反応】を明確にすることです。

 その結果として、きのよわし君が、「私もメンバーに聞いてもらえる(影響を与える)意見が言える」と新しい 【自己概念】を形成し始めることができ、新しい循環のメカニズムが誕生するのです。

 このCPSIのメカニズムからも理解できるように、人とのかかわりを通して、「わたし」「あなた」という存在が創り出されるのです。逆に、一度、1つの集団の中である特定の「わたし」「あなた」というイメージができあがると、そのイメージにあった情報をやりとりしてしまい、そのイメージから抜け出すことがとても難しくなるのです。

 新しい「わたし」「あなた」を誕生させるためには、相互のかかわり、会話(やりとり)を通して、意識的に取り組むことが必要になるのです。時には、Tグループといった新しい環境の場で、新しい「わたし」「あなた」と出会う体験をすることも大切になります。そうした「わたし」「あなた」発見の場がTグループでもあるのです。(つづく)