Tグループとは No.023 体験学習の循環過程の「指摘」を「意識化」と表現し直す!!

 長年、JICE時代から南山短期大学人間関係科、南山大学心理人間学科と、ラボラトリー体験学習を引き継ぎ教育実践をしてきました。その中で「体験学習の循環過程」考え方は、ラボラトリー体験学習を語るためには、とても重要だと考えています。4つのステップの循環(サイクル)は、体験を通してシステマティックに学びを深めていくために大切なステップとなります。

 各ステップの記述には、<体験>⇒<指摘>⇒<分析>⇒<仮説化>といった言葉を用いて、これまで基本的にやってきました。これらの言葉の中で、さまざまな体験学習の場面で、この循環過程を語る時に、<指摘>という言葉に、つんつんは実は引っかかってきました。特に、最近は、AIアプローチやナラティヴ・アプローチなどの学びを深めるに際して、<体験>から<指摘>のステップに学びを展開しようとする中で、学習者、さまざまな体験の中から自分自身が自分のありように「気づく」ということの大切さを強調したくなってきていました。

 どうしても<指摘>という言葉を使うと、他者から「・・・を<指摘>される」という言葉をイメージしてしまうのです。そして、その行為の中には他者の評価が含まれやすいと言うことが起こります。自分が「気づき学ぶ」ということとはほど遠い感じがあったのです。幸いに、<指摘>の英文として、Identifyという言葉が並列されていたので、「私が、どんな私がいたか?」を「同定する(Identify)」こと、「発見する」ことですと、言い換えていたのが、これまでのつんつんの説明でした。

 何か適切な言葉がないか?これは長年考えていました。他動詞ではなく、自動詞で説明できる(「私が」が主語にできる)言葉を探していたのです。
 一方、D.A. Kolbら(1971)は、学びのプロセスをJ.Piagetをはじめとする発達心理学者のモデルなどを吟味しながら、体験学習のステップを提唱しています。

 彼らのモデルでは、<具体的体験(Concrete Experience)>⇒<内省的観察(Reflective Observation)>⇒<抽象的概念化(Abstract Conceptualization)>⇒<積極的実験(Active Experimentation)>が使われています(訳はつんつんの訳であり、訳者によって若干の違いがあります)。ほぼ、同義のワードで表現されていると思いますが、<指摘>のステップには、<内省的観察(Reflective Observation)>という言葉で表現されていることが興味深いです。これまでつんつんが説明してきている内容と同様のことだと理解しています。

 具体的に、Lewinのアイデアも加味すると、<体験>したことを振り返って(内省して)みる、自分や他者の言動を観てみるといったことを示しています。

 Kolbらは、体験から学ぶ学び方を、具体的体験と抽象的概念化を両極におく1つの次元と、内省的観察と積極的実験を両極におく1つの次元からなる2次元で考えています。こうしたKolbらの単にサイクルだけでなく、象限として捉えることも興味深いです。前者の軸を「体感による理解(Grasping via Apprehension)」対「認識による理解(Grasping via Comprehension)」と考え、一方は「内面化による変容(Transformation via intention)」対「拡張による変容(Transformation via Extension)」としています。

 「気づく」こと、<内省的観察(Reflective Observation)>、「内面化による変容(Transformation via intention)」といった意味を含めること、また同じ軸の<指摘>と対極にある言葉が<仮説化>という言葉であることから、<意識化(Awareness、conscientization)>を使うことにしたいと考えました。
 P. Freireの<意識化(conscientization)>用語としては、漫然としている行動の中で自分が何を考えているかと言ったことを意識化してみるといった使い方をされています。「意識化」という言葉を使うと、無意識レベルを意識化するといった、無意識と関連づけて考えられてしまうのではないかと言った危惧もありますが、素朴に、自分のとった言動をふりかえり、自分の中に、どんなプロセスが起こっていたかに気づく過程として「意識化」と表現したいと考えた次第です。

 このように<意識化>と表現することで、<指摘>といった時には、問題や課題を指摘する、指摘されるという意味内容にとられがちでしたが、<意識化>という言葉を使うことで、自分や他者、グループなどの問題や課題に光をあてるだけでなく、それぞれがもつ長所や強み、魅力にも光をあてることができると考えています。

 AIアプローチにおけるチームや組織における一人ひとりが「努力して取り組んできたこと」や「生き生きする源としてポジティヴ・コア」などを発見すること、気づくことを大切にした問いかけに光をあてることができると考えています。「問題解決型のアプローチ」だけでなく、「対話型のアプリシエイティブなアプローチ」における学びに対しても、体験学習の循環過程(サイクル)の考え方が広く適応されることになると思っています。
 みなさまにとって「体験学習の循環過程」を<体験>⇒<意識化>⇒<分析>⇒<仮説化>⇒<新しい取り組み:体験>として、説明して頂けそうでしょうか?(つづく)