Tグループとは No.021 Tグループの誕生のお話

 1946年の夏、米国コネティカット州ニューブリテン市において、マサチューセッツ工科大学集団力学研究所とコネティカット州教育局人種問題委員会の共催ワークショップが、Lewinら研究者を中心に開催されました。

 ソーシャルワーカー、教育関係者、産業界の人々や一般市民が参加し、公正雇用実施法の正しい理解と遵守を促進する地域社会のリーダー養成をすることが目的でした。具体的な問題としては、ユダヤ人とアメリカ人の雇用差別の撤廃を推進するために、ワーカーの再教育を行い、人間関係能力の向上をめざすためのグループワークが実施されました(Benne,1964,坂口・安藤訳、1971)。

 そのワークショップのプログラムには、現場の問題を持ち寄りグループ討議やロールプレイングなども取り入れていたようです。Lewinの発案でグループの討議の観察者を置き、記録し、一日のプログラム終了時に、研究者たちと観察者がディスカッションをすることにしたのです。

 毎晩研究者と観察者が集まりスタッフミーティングを開き、グループの中で起こっていること(リーダーやメンバーの行動の分析や解釈)を話し合い、どのようにグループが成長しているか(グループの発達過程)なども議論していたのです。

 メンバーからスタッフミーティングに出席したいとの要望があり、Lewinはその会合に参加することを認めたのです。

 ただ、このくだりは、「感受性訓練(三隅二不二監訳)日本生産性本部、1971」にTグループの誕生でK.D.ベネによって書かれているのです。一方、「KURT LEWINその生涯と業績(A.J.マロウ著、望月・宇津木訳)誠信書房、1972」で紹介されていることと微妙に異なります。

 前書では、トレーナーと研究観察者の報告会に、研修参加者から申し出があって、それを検討した結果、会合への参加を認め、参加することになったとあります。しかし、後書では、2週間という長い研修の間の休み、参加者の多くは自宅に帰り、残っていた3人にK.Lewinが招待する形で、その会合への参加をすることになったとあります。

 いずれも、他の研究者はプログラム等への影響を考え少し抵抗があったが、K.レヴィンは積極的に観察者のデータのフィードバックを得ること、データを共有することに何も問題はないだろうと判断したようです。特に、後書では、より積極的に研修参加者を招き入れることをK.レヴィンは行っているのです。

 どちらの記述が正しいのか、定かではありませんが、きっと参加者も含め、さまざまなメンバーがともにディスカッションすることは、まさにこのワークショップのねらいであること(今ここで分け隔て無く学びに取り組むこと)はLewinは尊重したかったのだろうとつんつんは想像しています。こうした中にも、K.レヴィンにある平等、公平、民主的、全員参加などのグループアプローチの基本的考え方が研究や研修の場面にも根付いていたのだろうと思います。

 そして、ある晩、観察者のグループ状況についての報告を聞いていたあるメンバーが、その内容について異議を唱え出し、他の参加者メンバーもそれに補足をし始めたのです。結局、研究者、観察者、そして参加メンバー全員が、3時間に及ぶ討議になったのです。

 その討議の中で、今、その場で話し合っている人たちの間で起こっていることにも焦点があたることになり、そのことから、その人自身の行動や他のメンバーの行動や集団についての深い理解が生まれたのです。

 グループの相互作用過程において、“今ここ”で生起している事柄に対する認知と解釈がそれぞれのメンバー間で異なっていたのです。それぞれの感じ方や見方を開示しながらグループで吟味することにより、刻々と変化していくグループの真実のプロセスを理解することが可能になり、その討議を通してグループが成長していくことを発見したのです(Benne,1964,坂口・安藤訳、1971)。

 Lewinらにとってはこうした出来事は衝撃的であり、グループ・ダイナミックスや人間関係に関する学習は、一方的に聞く講義よりも、参加者が“今ここ”で体験していることを学習の素材として学ぶ体験学習が有効であることを確信したのです。

 翌1947年夏、メイン州ベセルにて、前述のワークショップと同じトレーニングスタッフで、3週間のプログラムが行われました。それは「基礎的技能トレーニング(Basic Skills Training)」と呼ばれ、その後「Tグループを中心とする人間関係ラボラトリー (Human Relations Laboratory)」へと発展していきました。残念なことに、Lewinはこのとき他界しており、こうしたトレーニングの発展を自分の目で確かめることができなかったのです。

 学習者自身の体験をもとに学ぶラボラトリー方式の体験学習は、1948年以降は、NTL(National Training Laboratories:アメリカ教育協会(NEL)の訓練部門、現在はNTL Institute for Applied Behavioral Science)が主催となって、米国だけでなく、世界中に広まり、もちろん日本にも展開され、現在に至っています。

 私たちは、このTグループの誕生のありようを原点として人間関係づくり、チームづくり、組織づくりのプログラムを展開していく必要があると考えています。(つづく)