Tグループとは No.035 自己開示すること:未知な自分と出会うために

 No.034で、自己開示が促進される環境として、メンバーが相互に受容し合っていると感じられる信頼の風土の環境が生まれることの必要性を記しました。また、そうでない環境の場合には、その不安や葛藤場面を乗り越えることをグループメンバーが学ぶことを通して、“今ここ”での会話・自己開示が促進されると記述しました。

 その語りの中で思いがけない自己発見が起こることがあります。いかに自分のことを語ることができるかはとても大切なことです。ただ、自分を語るためには、聴く相手の存在が必要です。

 聴く相手のありようは、ロジャーズの中核三条件を思い出すと、聴く相手としての態度がどのようにあるとよいかについての理解が深まるでしょう。私としては、先ず、「受容:無条件の積極的関心」をもって向き合い、「共感的理解」をもって受けとることができることが大切になるでしょう。そして、聴いている時の私の中で起こることと私の言動の「自己一致」を吟味することです。そのような関係の中で会話を通して、語っている本人が自己洞察が進み、自己確認、自己発見が生まれていくのでしょう。

 ただ、目の前に安心できるメンバーがいるだけで自己開示、自分のことを語ることができるかといえば、なかなか難しいことも考えられます。そして、語る相手がいるだけでなく、その相手から語る人を中心にすえた無条件の肯定的な関心をもった問いかけ(質問)がなされることが大切になります。

 その時に、ロジャーズの中核三条件に加えて、AIアプローチ(アプリシエイティヴ・インクワイアリー)とナラティヴ・アプローチ(またはナラティヴ・セラピー)の視点をもった聴き手の態度をもつことは大切になるのではないかと考えています。

 AIアプローチでは、これまでのさまざまな経験の中で、自分が苦労してでも取り組んできた体験ややり遂げた体験を思い起こし、その中に一人ひとりのメンバーがイキイキと生きることができる源(ポジティヴ・コア)を探求する姿勢を強調しています。そのポジティヴ・コアの探求がとても重要なテーマです。会話を通して、そのポジティヴ・コアを発見し、それを実現するためのかかわりづくりを共にすることが、グループ、チーム、組織、コミュニティづくりの要になるのです。

 D.ホイットニーら(2012)は、アプリシエイティヴ・リーダーシップという言葉を使って、①インクワイアリー、②イルミネーション、③インクルージョン、④インスパイア、⑤インテグリティと、5つのIの思考法を提唱しています。グループのメンバーの問題行動や課題を探求するのではなく、「イキイキ生きることができる源:ポジティヴ・コア」を探求することを念頭に置き、問いかけを行うことが語り手に新しく未知なる自己、隠れていた自己を発見する機会になるのです。

 しかし、グループのメンバーの中に、そうしたイキイキした体験など持ち合わせていないと語られ、自分の否定的な面に光をあてた語りが続く人がおられます。そうした時の問いかけのベースにナラティヴ・アプローチ(または、ナラティヴ・セラピー)の考え方はとても大切だと考えています。

 国重さん(2013)は、ナラティヴ・セラピーを「人を問題の主たる責任者であると位置づけることを拒絶し、ものごとの『本当の真実』は存在せず、ただそのことを語るストーリーが存在するという立場を取ること、そして、その人自身に自分の人生を生き抜いていくことのできる資質、資源、能力が必ずや存在しているという仮説を持っていることなどがあげられるでしょう。つまり、その人には必ずや希望があるのだという信念を持っていること、と言ってもいいでしょう。」と述べています。

 ナラティヴ・セラピーでは、相手がいかに苦境の中に置かれていると語られても、相手の意図や願いを見出し、その人が人生を生き抜いていくためのアイディンティを確かなものにするための問いかけのヒントを教えてくれます。抱えている問題や課題をその人のせいにしない「外在化」する問いかけ、自分の体験について日頃語り続けているストーリーとは違う視点で語り直す「再著述」する問いかけ、また新しい自分の試みを支えてくれてサポートしてくれる人々を発見・再確認する「リ・メンバリング」する問いかけなどを教えてくれます。

 このように、AIアプローチも、ナラティヴ・アプローチも、語り手と聴き手が会話を通してともに創り出す世界の大切さを教えてくれています。トレーナーやファシリテーターは、問題を見つけ出し、その人がその問題や課題を修復するために取り組むだけでなく、一人ひとりが抱えている大事にしたいこと(意図やねらい、価値観など)を対話を通して、明確にし、メンバー一人ひとりから生まれてくるやってみたい行為を支援する存在になりたいものです。

 きっとその先には、メンバーが相互に、またラボラトリーを離れたところでも、グループや組織が支え合うコミュニティが創り出されることを、ラボラトリー体験、Tグループ体験はめざしているのです。(つづく)