Tグループとは No.047 グループは変化する:Bennis & Shepard(1956)のモデル
Bennis & Shepard(1956)は、グループメンバーの相互作用において生起する内的不確定性(internal uncertainty)の主たる領域を調べること、すなわち妥当なコミュニケーション(valid communication)の発達の障害となるものを見つけ出すことによって、広く有益なグループの発達理論を構築しようとしました。
彼らは、不確定性には2つの主要領域があると考えています。1つはグループの中の勢力と権威に関する領域で、もう1つはメンバーの相互関係に関する領域です。両者は独立しているわけではないのですが、勢力と愛、権威と親密さ(intimacy)という概念で示されるようにそれらは識別できると考えられています。
彼らの発達理論では、「依存ー権威関係」と「相互依存一個人的関係」の2位相に分けられ、さらに各位相は3つの下位位相から構成されると考えられています。すなわち、第Ⅰ位相の「依存一権威関係」には下位位相1「依存段階」、下位位相2 「反依存段階」,下位位相3「解決段階」、第Ⅱ位相の「相互依存一個人的関係」には下位位相4「魅了された段階」、下位位相5「覚醒段階」、下位位相6「合意による確認段階」の6つの下位位相を想定しています。
第Ⅰ位相「依存一権威関係」は、メンバーがどのように権威に注意を向けるかによる下位位相によって特徴づけられます。権威に対する位相は、誰がこのグループをコントロール(統制)しているのかといったグループの活動に対する責任への不硴定性を低減することと関係しています。下位位相1「依存段階」では,共通の目標を探っていくことによって不安を低減させようとします。
Tグループを例にすると,不安の原因を共通の目標が欠如していることではなく,グループの目標は何であるかを知っているはずのファシリテーターに原因を求めようとします。こ の下位位相1は,依存的なメンバーによって特徴づけられ、グループは、自分たちの目標が何かを示してもらおうとファシリテーターに求めることが起こります。
下位位相2「反依存段階」では、グループの要求にファシリテーターが応えてくれないことにより、メンバーはファシリテーターに対する全能感と無力感の矛盾の中で二極化しはじめます。話題とか手続きを決めてグループ活動を進めていこうとする依存的なメンバーに反対して反依存的なメンバーはそれらに抵抗しようとします。
この下位位相のもう1つの特徴は,両者のメンバーからファシリテーターはグループの進展にとって無意味だと見なされ、ファシリテーターへの魅力が急速に低下することです。
以上の2つの模索の時期を過ぎると下位位相3「解決段階」に入ります。この下位位相では、依存的なサブグループにも反依存のサブグループにも属していなかった独立的なメンバーが「解決カタルシス」に向けて動きはじめます。たとえば、自分たちがやりたいことをやろうといった直接的な提案がなされたりします。
Bennis& Shepard (1956)は「トレーナーの象徴的解任 (symbolic removal of the trainer)」とよび、グループは自分たちのグループへの責任意識を発展させはじめます。こうしてファシリテーターもグループの一人のメンバーとして行動することが認められるようになり、グループの自律性が生まれはじめます。しかし、グループ内に強い独立的なメンバーがいなければ、この下位位相は明確な形で現れず、第Ⅱ位相の下位位相にこの課題が引き続くことがあります。
第Ⅰ位相の権威とコントロールから生じた課題が解決すると、グループは情愛(affection)・親密さ(intimacy)に関連した課題に焦点が当てられる第Ⅱ位相「相互依存一個人的関係」に移行します。下位位相3から下位位相4「魅了された段階」に入っていくのは比較的早いと報告されています。この下位位相では権威の問題に挑んでいたときの緊張感を隠そうとして、笑いとか冗談がグループの中で起こることになります。また、メンバーは意見の違いを取り繕ったり、傷を癒すことに注意を向けようとします。この位相はこうしたカタルシスで始まるが、すぐにこの軽い気持ちを持続するように、またネガティブな情動を抑圧するような規範が生まれ、メンバーに圧力がかかります。この下位位相の終わりには、初めの頃の幸福感、連帯感、調和といったものが偽りのものであると感じられはじめ、グループには再度サブグループが形成されはじめます。
下位位相5「覚醒段階」では、対人関係に必要な親密さに対する矛盾した態度の結果として、サブグループに二極化が起こります。過度に他者に関心を示す(overpersonal)人たちは、親密さとかポジティブな情緒的サポートを要求するし、逆に関心を示さない(counterpersonal)人たちは、グループの団結の中に巻き込まれないようにしようとします。
ところが、両者とも共通の気持ちからこれらの反応が生起しているのです。すなわち、その気持ちとは、もし他者が本当に私のことを知ったなら、彼らは私を拒否するであろうという不安からくるものなのです。それゆえ、この拒否されることを避ける方法として、前者のメンバーは他者に寛容であることによって、自分自身も他者から寛容に受け容れてもらおうとするし、後者のメンバーは自分が拒否される前にすべての他のメンバーを拒否しようとするのです。下位位相4と5は、グループの変化にともない、さらに深いグループへのコミットメント(関与)が自尊感情(self-esteem)を傷つけるだろうといったメンバーの誤った確信から生まれてきているのです。
下位位相6「合意による確認段階」では、独立的な人たちによって、相互依存の問題を解決する方向に向かって、両者のメンバーが統合されるようになります。たとえば、独立的な人たちが、グループ内での自分の動きに関してフィードバックを求めるように働きかけ、実際にフィードバックが起こることによって、メンバーの感情を傷つけられないかといった恐れが低減し、相互依存・相互信頼の関係が成立するようになります。
この段階では、トレーニングが終わりに近づいており、時間的な圧力も感じ始め、グループ内でのフィードバックのやりとりの欲求も高まリます。
以上のように、Bennis & Shepard (1956)は、メンバー間に適正なコミュニケーションが成立していく過程を通して、グループの発達をとらえようとしています。発達過程には、障害物として権威と親密さに対する懸念が存在する主要な位相があり、時としてグループはその懸念を乗り越えることがとても難しいことが起こるようです。(つづく)