Tグループとは No.046 グループは変化する:Gibb(1964)のモデル
Gibb(1964柳原訳,1971)は、「人間は、自分自身および他人をよりよく受容するようになることを通して成長することを学ぶ」と考えています。自分や他者を受容することを難しくさせているものは、人々が生活する文化に浸透している防衛的な風土(defensive climate)から生まれる恐怖や不信頼という防衛的な感情であると考えられています。
一人ひとりがもっている恐怖や不信頼を低減させて、相互信頼の風土をどのように創り上げることができるかを学ぶことによって、個人の成長を図ることが可能になります。そのことを学ぶために、Tグループといわれる集中的な対話のグループ体験が、重要な学習機能を果たすことになると考えられています。
Gibbは、私たちのさまざまな社会的な相互作用の中に、他者との関係で生まれる不信頼に由来する4つの懸念(concern)があると仮定しています。
1.受容懸念(acceptance) 自分自身や他者をグループのメンバーとして認めることができるかどうかにかかわる懸念です。グループが形成された初期の頃に特に顕著に見られがちです。メンバー相互の中で「あなた(わたし)は何者なのか?」、「自分はこのグループにふさわしいのか?」などといった恐怖や不信頼から生まれる気持ちが起こっています。
日常の集団では、見せかけを装うことで、この懸念を隠そうとすることが多くあります。 私たちは、子どもから大人になるにつれて“見せかけを装うこと”を身につけてしまいます。そのことが、自己を受容したり、自分自身を信頼したりすることを困難にしているのです。
この懸念が強く、不信頼な関係の中では、メンバーは自分の公のイメージを固守しようとしたり、相手の態度を変えさせようと迫ってみたり、忠告を与えようとしたり、感情や葛藤をいかに避けるかにエネルギーを費やすことになります。逆に、ていねいすぎるほどのかかわりやこびへつらったような行動が現れます。
しかし、この懸念が表出され、グループの中で解消されると相互信頼が生まれ、自他の受容が可能になります。
2.データの流動的表出懸念(data-flow) この懸念は、コミュニケーションにかかわる懸念で、意思決定や行動選択をするときに特に顕著に現れます。「他のメンバーは何を感じているのか?」、「こんなことを言ってもよいか?」などのようにメンバーのものの見方、感じ方、態度などをコミュニケーションをする際に生まれる恐怖や不信頼に由来します。
この懸念が強いときには、自分自身の感情を否定したり、わざとらしいほどのていねいさで話したり、他のメンバーの感情を害さないように極度に気遣ったり、または表面的なお天気話に終始してしまいます。
こうした行動も私たちは社会化を通して、自分の中にあるデータをうまく隠すようになってしまっている結果と考えられます。防衛的な人たちは、グループの中に生まれているデータをあるがままに見ることは難しく、目の前にいる人に直接的に応答することを阻止するような壁を自らの中に創り上げているのです。
しかし、この懸念が解消すると、より適切なデータの収集と表出に基づいて行動ができるようになっていきます。
3.目標形成懸念(goal formation) この懸念は、生産性に関連しており、「グ
ループが今やろうとしていることがわからない」とか「やらされている感じがする」といっ た個人やグループに内在する活動への動機の差異に基づく恐怖や不信頼に由来しています。
日常の集団活動では、特定のリーダーや数名のメンバーが“中心人物”になり、彼らが説得的な方法で他者に目標を提供したり、または高圧的な姿勢で押しつけたりしてしまいます。他のメンバーはそれを義務感や忠誠心から、本来の自分自身の動機でなくとも、とにかくやらなければとか、がんばっているところを見せようとか、“模範的なメンバー”であるところを見せようなどど思って、その活動に参加してしまうのです。それは、ただ“何かをするために”何かをしているということになってしまうのです。グループが動き出しても、 メンバーは仕事と関係ないことをやってみたり、こそこそ話をしたり、言葉尻をとらえて論争がはじまったりといった消極的な抵抗が生まれることがあります。
しかし、この懸念が解消されると、個々のメンバーがもつ本来の動機に基づいて行動し、課題への取り組みが主体的創造的になっていきます。
4.社会的統制懸念(social control) この懸念は、「だれかに頼っていたい」、 「特定の人の影響が強い」、「規則などにこだわってしまう」など、メンバー間の影響の及ぼし合いにかかわる恐怖と不信頼に由来するものです。
この社会的統制懸念が未解消のメンバーは、他のメンバーを統制するためにさまざまな説得的な手段を用いたり、他者に影響を与えることを恐れて積極的な行動を避けたりしようとします。あるときは忠告を与えようと振る舞ってみたり、あるときは討論や議論などで論争的に話し合いを進めようとしたりします。それは、討論のルールに基づいて行われたり、少数のメンバーで構成されるサブグループによって行われたりすることがあります。
この懸念が解消すると、役割の分配が自由に行われ、変更も容易になり、お互いが影響を及ぼし合いながら効果的生産的な活動を展開することができるようになります。
Gibbは、集団の活動、とりわけTグループのような集中的な対話グループにおいて、これらの4つの懸念は、「受容懸念」→「データの流動的表出懸念」→「目標形成懸念」→「社会的統制懸念」の順序で発生し低減していくと考えています。これらの低減の順序は基本的な考え方であり、4つの懸念はそれぞれ同時的に、また相互依存的に発生したり低減したりして発展していくので、相互に影響し合いながらグループは成長していくと考えられます。
たとえば、グループの中で手続き論が話されて、一見社会的統制懸念が表出され処理しているように見えても、実はその根底には受容懸念が働いており、その受容懸念を解消しようとする試みであるとも考えられます。(つづく)