Tグループとは No.043 グループは変化する:Hampden-Turner(1966)のモデル

 Hampden-Turner (1966)は、学習や成長過程を示す循環過程モデルを提唱しています。その循環モデルにとって大切な要素は以下のようなものです。

1.それぞれの学習者の能力(competence)は、自分自身の認知とアイデンティティの明確さと自尊感情の程度からなる。
2.学習者は自らのおかれた環境にこの能力を投資する。時々その投資は、その人の能力以上のリスクを負わなければならないことがある。
3.そのリスクは自己と他者との間に新しい橋を築くための努力であり、そのリスクに対してポジティヴなフィードバックを受けとる程度によってこの橋の築かれ方が異なってくる。 もしそのリスクが第三者によってネガティブな評価を受けるならば、葛藤状態がさらに深刻になる。
4.ただ、そのフィードバックの性質がどのいうものであれ、学習者は自分の認知やアイデンティティや自尊感情を修正することになり、そのプロセスは循環過程として機能する。

 この循環過程に従えば、学習は促進する方向へ、あるいは後退する方向へと螺旋的な進み方をします。前者の場合、学習者が投資をしたことが成功すると、より投資をする方向へとリスクを冒すことが増加しますし、ネガティヴなフィードバックを受けとる場合、よりリスクを冒さないように行動が防衛的になります。

 結論として「一連の投資が成功すること(もしくは投資が不成功に終わることがあまり怖くないものとして理解できること)は、循環過程のすべてのステップにおいて循環過程それ自身をさらに強める方向に向かわせることになります。認知はよりパワフルになり、より高い能力は経験されるでしょうし、より強い自己確証(self confirmation)に至る (Hampden-Turner,1966)。」と考えられています。

 この循環のモデルは、グループ学習の状況の中においてしばしば観察することができます。グループが親密さや温かさを共有する方向で動いているときは、メンバーはよりいきいきとします。

 たとえば、あるメンバーが今のグループ状況はなれ合い的な雰囲気で、表面的なかかわりだけで済ませようとしていると感じているとき、そのことを言おうか言わないでおこうか迷いながらも、結局自分が感じているグループ状況を語り、メンバー相互のもう少し深いかかわりを求めていることを伝えたとします。そのとき、同じことを感じていたというメンバーが現れたり、思い切って伝えてくれた勇気を賞賛してくれたりして、彼/彼女の行動が受け容れられる体験が起こると、彼/彼女の自尊感情が高まることになるでしょう。そのことは、彼/彼女自身の能力を確かなものとして感じたり、自分自身をグループに投資することに対してさらなる勇気を与えたりすることになります。

 また、彼の行動は他のグループメンバーにも影響を与えることになります。彼の行動によって、彼はグループの他のメンバーに対して投資をすることや、リスクを冒すことの大切さを示したり、メンバーを励ましたりしたことになります。結果として、彼/彼女はそのグループのノーム<例えば、リスキーになることは必要だ>を変化させることになります。

 このような循環過程に関して、リピット(Lippitt,1982)も「社会的相互作用の循環過 程」というモデルを提唱し、自己概念の変化や固着化について説明を試みています(津村,1992) (本シリーズのNo.032参照)。(つづく)