Tグループとは No.037 フィードバックとは異なるリフレクティングを聞くこと:自分の語るストーリーとは異なるストーリーと出会うために
フィードバックとは、No.036で記したように、メンバーの意図した言動が他のメンバーにどのような影響を与えているかを知るための情報であり、他者との直接的な会話を通してフィードバックを受けとることになります。
矢原隆行さん(2016)は、リフレクティングという書籍の中で、「『はなす』ことを外的会話(他者との会話)、『きく』ことを内的会話(自分との会話、あるいは、自分の内なる他者との会話)」と呼んでいます。
ここでいうリフレクティングとは、1985年3月に、T.アンデルセンが家族セラピーの中で行った画期的な試みから生まれたものです。家族療法では、面接中の家族と担当者のやりとりをワンウェイ・ミラー越しに見ていて、隣の部屋で見ていたチームから途中で他の視点からの質問の指示が担当者に出されて、その担当者が質問をするといった面接を行っていたのです。
ところが、ある日、一人の若い医師がある家族と面接を行ってい時に、こうしたやり方でも家族の悲惨な話から抜け出すことができない状況に入った時に、アンデルセンら、ワンウェイ・ミラーの向こうから面接のやりとりを聞いていたチームが、面接中の家族と担当者に、今度はチームのやりとりをそちら側から聞くことを提案したのです。
家族は「Yes」と答えたのです。そこで、明かりと音声を切り替えたのです。面接を受けていた家族の部屋が暗くなり、観察していたチームの部屋が明るくなりマイクがONになったのです。
アンデルセンら観察していたチーム(リフレクティングチーム)の「クライアント家族たちの会話」についての会話を行ったのです。その会話の様子を家族らは観察をしたのです。観察される側が観察する側に転換したのです。
やがて、その会話が終わった後、再び明かりが切り替えられたミラーの向こうに現れた家族たちの様子は、それまでとは大きく異なるものだったそうです。家族は、短い沈黙の後、お互いに微笑みながら今後について楽観的に話し始めていたのです。このような劇的な変化が起こっていたというエピソードからリフレクティングチームが生まれたのです。
自分が当事者となって相手との直接的な会話をする、矢原さんの言葉では外的な会話ではなく、当事者として巻き込まれないような形で、相手のチームが自分たちのことを「ああでもないこうでもない」と話したり、こんなふうに自分は理解した、あんなふうに理解したなどと話していることを聞くこと、すなわち内的な会話の中で、自分の内なる他者との会話が起こり、新しい見方や洞察が生まれてくると考えられています。
このリフレクティング・チームのルールとしては、T.アンデルセンはあげています。
①私たちの反応や解釈は、その場の家族の会話内容に基づいているべきで、他の文脈から持ち込んだものによらないこと:目の前のメンバーが交わしている会話、言葉や表現を大切にすること
②家族が聞いている会話では、その家族について否定的なことは、言わないよう努めること
③ワンウェイ・ミラーがなく、家族も面接者もチーム員も一同同じ部屋で行う場合でも、チーム員同士が感想を述べ合う際には、そこに居る家族や面接者の方に目を向けて話さず、チーム員同士が向き合って話すこと:直接的な会話に相手のメンバーを巻き込まないようにすること
また、M.ホワイト(2007)は、アウトサイダーウイットネスという言葉を使って、同様のリフレクティングの働きの有効性を提唱しています。
リフレクティング・チームとして機能するためにはかなりトレーニングが必要になるでしょう。直接、メンバーからフィードバックを受けることとは異なり、リフレクティング・チームの会話をただ聞くことは、聞いているメンバーに内的会話を促し、自分の考えているストーリーとは異なるストーリーを発見する機会になるでしょう。
JIEL(ジャイエル:一般社団法人日本体験学習研究所)では、従来のタイプのTグループを開催すると共に、新たなTグループのアプローチとして、リフレクティング・グループ(Tグループと同様にチームではなくグループと提示)と共にTグループを体験する新しいタイプのプログラム構成のTグループ講座を昨年(2019年10月)より開始し、本年2020年10月にも第2回のTグループ with Narrative Approachと副題を付けて実践しています。
まだ2回の実践しか行っていませんが、いくつかの課題と可能性を感じつつ、この新しい試みはTグループのメンバーにとっても、リフレクティング・グループのメンバーにとっても学びの豊かなラボラトリー体験学習の場になっていることは間違いないという確信をもつことができています。(つづく)