Tグループとは No.029 ベーシック・エンカウンター・グループの誕生を通してTグループを理解する
1946年と1947年にシカゴ大学カウンセリング・センターにいた、非指示的カウンセリングの創始者であるC.Rogersとその仲間たちによって、第二次世界大戦後の復員軍人の問題に対応するためのカウンセラー養成として集中的なワークショップが行われたのです。カウンセラー養成から始まったグループ・アプローチを「ベーシック・エンカウンター・グループ」と称しています。
Rogersは、グループの体験は、一人ひとりの人間の存在を尊重し、“今ここ”での関係に生きるとき、メンバー相互に驚くほどのエネルギーの集中が起こり、そのとき個人やグループの変化成長が起こることを発見したのです。
RogersはTグループの活動と出会い、「集中的グループ体験は、おそらく、今世紀のもっとも素晴らしい社会的発明である」と述べ、グループの力の偉大さを讃えています。
Rogersが始めたベーシック・エンカウンター・グループは、彼の主張するクライエント中心療法(Client-centered therpy)の視点をグループの状況にも持ち込み、一対一のメンバー相互の理解や出会いに強調点が置かれています。後に、人間中心のアプローチ(Person-centered approach)と治療場面だけでなく広く呼ばれるようになりました。
ベーシック・エンカウンター・グループを展開した研究者は、臨床心理学者であることから、グループ体験を通して、個人の気づきを深めたり、自己や他者との出会いの体験をすることに焦点が当てられています。
一方、Tグループの誕生は、グループダイナミックス研究の創始者であるK.Lewinと仲間の研究者により発見、開発されており、Tグループは、社会心理学、グループダイナミックス研究、教育学といった研究フィールドの背景があります。その背景より、Tグループではグループの視点から人と人とのかかわり方を吟味し、グループ・ダイナミックスの理解と共に、メンバー一人ひとりの関わり方の相互の影響を知り、民主的風土づくりにおいてどのような関わりが効果的であるかを学ぶことに焦点が当てられています。
ベーシックエンカウンターグループは、1960年以降、人間性回復運動(Human Potential Movement)と関係しながら、Rogersの所属する人間研究センター(Center for Studies of the Person, La Jolla, California)が中心に全世界に急速に普及していきました。特に、前述のように、参加者の心理的な成長(personal growth)や個人のコミュニケーションや対人関係の改善・発展を主たる目的とすると共に、治療的な志向性をもっていました。
日本にも、1969年にRogersのもとで学ばれた畠瀬さんたちが、1970年に「エンカウンター・グループ・ワークショップ」と称したグループを実施して以来人間関係研究会を発足したり、村山さんらを中心とする福岡人間関係研究会などが実践と研究を発展させ、広く日本でも知られるようになってきています。
これからの経緯から、ベーシック・エンカウンター・グループは、臨床心理学者が中心となり、治療的な視点を含めて、個人の気づきと成長を尊重した、安心安全の風土を徹底的に大切にしたグループアプローチとして日本では根づいてきたと考えられます。
一方、Tグループは、社会心理学者や教育学者が中心になって、教育的・学習的な視点から、グループダイナミックスを活用した個人のリーダーシップやグループの民主的な風土づくりを促進するための学びの場として発展してきており、チームや組織の変革に向けたチェンジエージェント(change agent)の育成を大切にしたグループアプローチであったと言えるでしょう。
それぞれの生い立ちとめざすアプローチの違いが、参加する人々に違いがあったり、トレーナーやファシリテーターと呼ばれるリーダーの関わり方の違いやプログラムの構造の違いなど現在もなお維持・継承されてきていると思います。その意味で、それぞれのグループアプローチの意味があり、存在価値があるのでしょう。
しかし、その違いを超えて、人間尊重〜一人ひとりの主体性の尊重〜に基づくグループの運営を考えると、トレーナーやファシリテーターの共通の姿勢や関わり方も多くあり、相互に研鑽し合うことで新しい展開が日本で生まれるのではないかと考えています。(つづく)