Tグループとは No.018 学生の形容詞語を用いた多変量解析分析によるグループ雰囲気を試みる(2軸:信頼ー不信頼、自由ー緊張)

 若かりし頃の研究をもう一篇、紹介させていただきます。1985年の米国留学前に行った研究です。南山短期大学人間関係科で実施しているTグループ合宿での学びを、学生は学生の言葉でどのような視点から捉えているのかを問題として取り組みました。それまで、Gibbの4つの懸念の測定と変化、またBradfordの3つの学習動機と懸念との関連性などについて検討をしてきていましたが、学生(参加者)の生の言葉から学生が観るグループをとらえる視点はどのようなものかを検討したかったのです。

 Tグループのふりかえり用紙の項目に、「今のセッションの中での自分及びグループを表す単語を記入してください」という項目をおき、毎回のセッション終了後に、アンダーラインの上に3つずつの単語を記入してもらったデータをもとに分析を行ったものです。全グループ(9グループ)、全セッション(16回)を通してのべ2280個の単語で自分やグループの雰囲気(状況)が示されていました。

 その言葉の中から、グループを表す形容詞・形容動詞の単語、冗長な単語をのぞき、96個の単語を抽出しました。

 それら96個の単語を1単語ずつカードにし、Tグループ合宿参加者10名に、山分け法で2回分類をしてもらいました。山分け法とは、類似の単語を1つの山に分ける分類法です。それらを96×96の間の類似度マトリックスを作成しALSCALという多次元尺度法を用いて、2次元解(ある程度の説明率で解釈できそうという解)を求めました。

 結果的には、第Ⅰ次元は、「暖かい」「余裕のある」「リラックスした」「なごやかな」
「うちとけた」「和気あいあいとした」「ざっくばらんな」「いい感じの」「居心地のよい」などの項目群が、逆に、「嫌悪な」「ぶつかりあいのある」「バラバラな」「対立した」「敵対的な」「分裂した」「感情的な」「過激な」の項目群が、第1次元の反対の極に布置していました。この次元を、<緊張(感情的ぶつかり合い)ーリラックス(和気あいあい)>と解釈しました。

 第Ⅱ次元では、「まとまりのある」「協力的な」「理解しあっている」「連帯感のある」「一体感のある」「信頼感のある」「団結している」「助け合っている」「抱容力がある」「思いやりのある」「親密な」群が一方の極に、逆に「偽りのある」「不自然な」「遠慮のある」「表面的な」「かたい」「よそよそしい」「形式的な」「ぎこちない」「おもくるしい」「息苦しい」「不健康な」「陰気な」「暗い」「疲労感のある」「冷たい」「気まずい」の群が付置していました。結果、第Ⅱ次元は<信頼(まとまり)ー不信頼(よさよそしさ)>として解釈しました。

 結果的には、学生(参加者)がグループをどのように捉えているかというと、<緊張ーリラックス>と<信頼ー不信頼>の2次元で捉えていると言えそうです。

 Tグループの発達・成長過程との関連でこれらの形容詞の布置の解釈を試みるなら,第Ⅰ次元〈信頼(グループのまとまり)-不信頼(よそよそしさ)> は、Gibbをはじめ多くの研究者が考えている次元と一致しており、Tグループの発達・成長過程を分析するための大切な次元として学生(参加者)も同様にとらえていました。このことは、Gibbの提唱する4つの懸念の低減にともない生じる信頼関係の成立過程と関連して分析していくことは妥当であると言えるでしょう。

 また、グループの学習過程を学習動機の側面から捉えるBradfordの仮定とも関連づけて分析することができました。Bradfordは,学習動機として自我防衛の動機、グループ形成の動機、相互啓発の動機を仮定しています。学生の素朴な反応からも、学習動機と形容詞表現とある程度の関連性を見出すことができました。

 全般に学生(参加者)はグループを捉える共通の視点をもっており,形容詞による素朴な反応からもTグループの発達・成長過程を分析・一般化する資料として充分に活用できることに確信をもつことができました。ただし、数量化によるデータ分析が必ずしもメンバーの詳細なプロセスを探求するには限界があることも感じ、こうした数量化に基づくリサーチは、つんつんとしては閉じていく方向に進み、米国留学から帰国後は、質的なデータ(記述データ)を読み解く形での研究に方向を転換することになりました。(つづく)