Tグループとは No.009 Tグループセッション初期:メンバーからのいろいろな提案にどんなふうに取り組むか?

 Tグループのセッションが始まると、Tグループには特に決まった話題や手続きもない、まっさらの(真空という表現もされることもあります)状態からスタートします。トレーナーからそのことについて説明が簡単になされます。たとえば、「Tグループでは、このメンバーとこの場所が決まっているだけで、あらかじめ決められた話題や手続きがありません。ラボラトリーですから、自分が取り組みたいことを自由に試み学びましょう。このメンバーで限られた時間を共に、“今ここ”で起こっていることを素材にしながら、みなさま一人ひとりのねらいとこのラボラトリーのねらいを大切にしてグループで過ごします。すでに、グループは始まっています。」といった具合にTグループの1回目のセッションが始まります。

 Tグループの場合には、一般的に、トレーニングに先立ち、トレーニングスタッフと事務局スタッフがだいたい前日に集まり、スタッフミーティングを行い、合宿形式の5泊6日間のラボラトリーのねらいを決めます。初日の開会後の全体会でそのねらいを提示すると共に、参加者のねらいも明確にしたり、参加しているメンバーと共有したりする時間がとられます。

 Tグループといった初期の曖昧な状況の中で、参加者はさまざまな動きをします。何かアイデアを出す人、そのアイデに乗る人、またじっと静観している人、トレーナーに質問をする人、それぞれの意図をもって動き出します。

 学生のTグループでの体験から初期のTグループセッションでは、グループ室にテレビがあるとテレビを見ようと提案されたり、トランプを持ち出しトランプをやろうと言ったりし始めることがあります。Tグループの経験を経る中で、それらの言動にもきっと彼らなりに意図があることに気づきます。とにかくこの曖昧な状況を抜け出すために何かやろうと提案したり、ここでは何をしてもよい、決められたことはないとトレーナーが言ったが本当だろうか、確かめてみたいと思って恐る恐る提案をしたり、みんなのことを知りたいので自己紹介をしようと提案し、まずは誰から何を話すか、と話題をいろいろと提供しようとしたりします。

 そうした言動に、トレーナーがどのような反応を示すかが、その後のトレーナーとの関わりやグループの中で言動への自由さや不自由さなどに影響を与えることになります。往々にして、従来のトレーナーはそうした話題に入らなかったり、憮然とした表情でその中でいたり、時にはしばらく時が過ぎるのを待って「今やっている中でどんな気持ちでいるか?」と尋ねられたりすることがありました。トレーナーの心の中では「『今ここ』から『逃げている』」という仮説が発動されているのです。あくまでもつんつんの見方かも知れませんが・・・

 しかし、「今ここ」のプロセスでは、「まさに、すでに起こっている」こと、学生一人ひとりの不安な気持ちやこの曖昧さから抜け出したいという思い(これはつんつんの仮説です)など、いろいろなことが起こっているはずなのです。その中から生まれているこうした提案は大切にされていないように、しばらくTグループに携わるように感じ始めてきました。一つ一つ、一人ひとりの「今ここ」での気持ちや思い、仮説を丁寧に取り扱っていくことが大切だと思うようになりました。

 いろいろな提案の背景にある意図や思いなども大切に聞いてみると良いかも知れませんし、何か取り組んでみたいといった思いから生まれた提案に共に何が生まれるのか共に試してみるのも良いかも知れません。そうした取り組み(体験)を通して、一人ひとりとのつながりやグループダイナミックスを理解していくことができるのだろうと考え始めました。

 Tグループセッションの初期の頃のトレーナーも含めての関わり方は、特にトレーナーにとって、トレーナーとメンバーとの関係が対等な関係なのか、教え教えられる上下の関係なのかといった関係性を形成することの大事な時期であると共に、どのように学ぶのか、共に探求し合う学び方を学ぶ、重要な時期だと考えています。

 このことは、外部トレーナーの人たちと共に仕事をさせていただきながら、Tグループ合宿に来るまでの学生を知っていることや合宿を終えたあとも学生と共に学びの場を過ごすことを考えると、合宿期間だけでなく長い目で学生たちの成長を見ることができる利点から、短期的な人間関係トレーニングではなくもう少し長期的な人間関係トレーニングとして考えてもよいのではないかと考えられるようになっていきました。

 ただ、こうした初期の頃からの学生のアイデアや声を大切にしていこうとする姿勢やありようについて、期を経るごとに教員の中にグループの中にいるスタッフとしての自信として芽生えていったのではないかと思います。

 つんつん自身、約35年を経過して、南山大学の退職を目の前にして、学生のTグループに参加した時は、やっと私自身が参加者である学生たちと共に自由にTグループを過ごすことができたように思っています。そのことは、参加者の学生たちもTグループの中で自由に振る舞いながら、さまざまな試み(体験)に挑戦しながら、自分の他者とのかかわり方やグループを形成するために大切なことは何かなどを学ぶことができたのではないかと思っています。ラボラトリー体験学習の真髄なのではないかと考えています。(つづく)