Tグループとは No.006 Tグループの懸念低減はどんなことと関係しているのか?

 当時南短ニンカンの同僚と共に、調査研究を行い、J.Gibbの「4つの懸念」の測定尺度を見出したことより、つんつんの探究心は、Tグループにおける懸念の低減がグループ内のメンバーの学びや個人のパーソナリティにどのように影響するかなどを探求したくなっていきました。その中で、1982年に開催した学生のTグループにおいて、L.P.Bradfordの学習動機とJ.R.Gibbの懸念の関連性を調べることによって、J.R.Gibbの4つの懸念の測定尺度の妥当性の検討もしたくなっていたのです。

 Tグループの発達過程に関して幾つかの見解があります。Bradford,L.P. (1963)はTグループにおける集団の発達過程を学習への動機づけの観点から考察し,(1)初期には個人の自我防衛への動機づけ,(2)中期にはグループ形成と維持 への動機づけ,後期には(3)自己成長と相互援助への動機づけが典型的に強くなることを仮定しています。それらの3つの動機づけを測るであろう尺度を構成し、その検討と併せて、4つの懸念との関連性の検討を行ったのです。

 その結果として、自我防衛のために用いるエネルギー(動機づけ)が減少することとグループのメンバーとして自他ともに受容されるようになる受容懸念の解消とは深い関係にあることが示されました。さらに、こうした関係は、Tグループのセッションが進むにつれて明確になります。グループ形成の動機は目標形成懸念と社会的統制懸念との間に高い相関があり、これより,グループのメンバーの凝集する方向へのエネルギーの増加は「グループが今やっていることがなにか」が明確になっていく過程(目標形成懸念の解消)と「メンバーが相互に頼り頼られている感じがもてる」ようになる過程(社会的統制懸念の解消)と深い関係にあることがわかりました。相互啓発の動機は,受容懸念,データの流動的表出懸念,目標形成懸念と社会的統制懸念とすべてと高い相関係数が得られました。4つの懸念が低減して相互信頼の風土が創り出されていく中で,相互に学び啓発し合おうとするエネルギーも増大すると言えると結論づけました。とりわけ,目標形成懸念とは初期の時点から高い相関が得られており,相互啓発の動機はまさにグループが今何をやろうとしているのかが明確になり,主体的に取りくむようになること(目標形成懸念の低減)と強い関連をもっていたのです。

 こうしたことより、メンバー間の相互作用の中で、丁寧に懸念の低減が起こるような関わりを促進していくトレーナーの働きが大切なのではないかと考え始めました。

 今名古屋から徳島に戻ってきており、資料が手元にないのですが、SMILE(聖マーガレット生涯教育研究所)西田真哉所長をはじめTグループ参加者にご協力をお願いして、社会人のTグループにおける4つの懸念の変化とメンバーのパーソナリティ認知の変化を調査研究させていただいたことがありました。この内容は、日本心理学会の年次大会にて発表をさせていただきました。結論として、懸念の低減が進み信頼の風土が高まるグループでは、自分に対するパーソナリティの認知(自己認知)は肯定的な方向に、懸念の低減が滞るグループでは、自分のパーソナリティの認知がネガティヴな方向に変化する傾向を見出すことができました。

 これらのことからも、Tグループのメンバー間の関係に相互の受容が生まれ、共に学び合い影響し合っているといった意識が強く持てることは学びへの意欲はもちろんのこと、自己認知にも影響を与えることになるのです。(つづく)

参考文献:ずいぶん前(40年ほど前)の拙論文ですが・・
No.005:◎津村俊充・山口真人(1981)「Tグループの発達過程に関する研究-短大生のTグループでの懸念解消過程の分析-」南山短期大学紀要第9号、Pp.81-102.

No.006:◎津村俊充(1983)「Tグループの発達過程に関する研究(II)-Bradfordの学習動機とGibbの懸念について-」南山短期大学紀要第11号、Pp.57-80